Steve Reich Guitar Woks

PROLOGUE

エレクトリックギターによるスティーヴ・ライヒ作品集によせて

スティーヴ・ライヒの作品にある高揚感や美しさ、格調高さは何度弾いても新鮮な驚きがあります。
ギター奏者として初めてのソロ作品を考えるにあたり、敬愛する作曲家の作品集にしようと決めることはたやすく、まるでずっと前から決まっていたように自然なことでした。
ライヒの作品はこれまで数多くの演奏家により演奏、録音されていますが、エレクトリックギターのみで制作されたアルバムは珍しく、日本国内ではおそらく初めての試みではないかと思います。

緻密で美しい手法で作られるライヒの作品は、現代音楽やクラシックというジャンルを超え、テクノやエレクトロニカ、ポストロック、ヒップホップなど多くの音楽ジャンルへ影響を与えています。
今作はライヒの作品から影響を受けた音楽から更に影響を受け、現代的な音色や音圧にこだわって制作しました。

僕はミニマルミュージックがとても好きです。そして、ライヒの作品をグルーヴ感溢れるダンスミュージックのように感じています。
レコーディングはピッキングに混じるノイズや微少な音色の変化を極力なくし、スコアに記載されているグルーヴが浮き上がるように細心の注意を払って行いました。
それはとても根気を強いられるものでしたが、ミックスエンジニアNerve(antennasia)さん、マスタリングエンジニアKIMKENさんにお力添えいただき理想としていた作品が出来ました。

本作がライヒの作品を楽しむ新しいひとつの方法になることを願っています。

2014年11月 タケムラヤスシ

NOTE

制作ノート

今作で一番苦労したことはギターの音色作りです。
楽器選びから始めたそれは長期に渡るレコーディング期間の大半を占めました。
本篇に佐藤紀雄先生にご執筆いただいた作品解説を掲載しておりますので、ここでは制作の道筋を少し記します。

Music for pieces of wood

1973 年に発表された「木片の音楽」。
アルバム構成の中ではリズムを表す作品です。
本来音程の指定されたクラベスのために作曲された作品ですが、きっとギターに合う、と閃いたことから始まりました。

もともと「木片」のための音楽なのでギターで演奏するためには編曲が必要です。
コンタクトを取ったところ、編曲の許可はなかなか下りないので他のレパートリーの準備を勧められましたが、その頃には初めの閃きが確信に似た自信に変わっていましたので臆せずチャレンジしました。
結果、諸々のステップを踏んだ後、原出版社のUniversal Edition AG様より編曲・録音の許可をいただくことが出来、大変光栄な作品となりました。
未だに許諾をいただいた時のことを思い返すと全身に鳥肌が走ります。

実音ではなくミュートで演奏することによりカリンバのようなアタックになり、ギターの弦はスコアに記されている豊かなハーモニーを露にしました。
刻み続ける音の粒は倍音を増幅させ、うねるようなグルーヴを生み出しました。

Nagoya Guitars

2台のマリンバのために作曲されたNagoya Marimbaを2本のギターのために編曲されたアルバム構成の中では旋律を表す作品です。
構成する要素が特にシンプルで、近年のライヒの作品には珍しく、少ない楽器のために書かれている作品。
小編成の合奏なのでライヒの手法が聞こえやすく、濃縮された魅力が詰まっています。
2本のギターが交差する様はドラマティックで高い緊張感を持つアンサンブルとなりました。

Electric Counterpoint

クラシック?現代音楽?ミニマル?テクノ・・・?よく分からないけれど、とにかくカッコいい!
高校時代に初めて聴いたエレクトリックカウンターポイントに抱いた印象です。
この曲に出会った時の強烈なインパクトが本作制作の根底にある原動力だと改めて感じています。
ライヒの音楽をきっかけに現代音楽やミュージックコンクレート、エレクトロニカ等を聴き始め、エレクトリックカウンターポイントを演奏するためにDAWを始めました。

プレーヤーでシャッフル再生をした時に、テクノやハウス、エレクトロニカやポストロック、ヒップホップと繋がっても違和感のない音色にこだわった今作の集大成、ハーモニーを表す作品です。
ライヒがギターのために作曲した作品が「エレクトリックカウンターポイント」であることが奏者としてとても嬉しい。

CREDIT

ミックスエンジニア:Nerve (antennasia)

驚くほど深い音楽知識から広がる解釈で色彩豊かな音響を与えてくださいました。
エンジニアリングだけでなく、様々な迷いを静かに受け止めて忍耐強くおつきあいいただいたこと、苦しい時に救ってくれた数々の励ましは心の支えでした。

マスタリングエンジニア:KIMKEN at KIMKEN STUDIO

僕のCDラックにはKIMKENさんが手がけられた作品がたくさんあります。
あこがれのエンジニアさんです。
とても繊細なマスタリングで、録音、ミックスのニュアンスを最大限に生かした新鮮な音にしてくださいました。

作品解説:佐藤紀雄

ギターだけでなく、音楽そのものを教えて頂き続けています。
先生にお会いしていなければ間違いなくこの作品が生まれる事はありませんでした。
端的に要約された解説は、いつまでも世話の焼ける生徒の作品に勿体無いほどの深みを持たせてくださいました。

翻訳 : 伊藤美由紀

国際的に活躍する電子音楽の作曲家に翻訳をしていただくという贅沢。
専門的な知識を元に訳された文章は作品の質を高めてくださいました。

翻訳:IMAGINE

音楽が大好きな南国のおふたりに自身の言葉を訳していただきました。
言葉と音楽で繋がった縁が続いていくことを嬉しく思います。

表紙版画 : 吉田千秋

EDENと銘打たれた作品は線と色の濃淡、揺らぎが調和の取れた音楽のようです。
一目見た瞬間に僕の中でライヒの音楽と吉田さんの作品がシンクロしました。
揺るぎない繊細な強さは本作を目指した方向に導き、視覚的にリズム、旋律、ハーモニーを表しているように感じます。

(順不同、敬称略)

無理なお願いの連続に何度もお応えいただき助けていただいた関係者の皆さま、楽器の手配に奔走いただいた三木楽器心斎橋店、PRS Guitars Japanの各ご担当者様、ディストリビューターBRIDGE松尾様、アグリゲーターMEGADOLLY安田様、Music for pieces of Woodの編曲・録音許諾申請についてご尽力いただいたショットミュージックご担当者様、チャンスを与えて下さったUniversal Edition AG様に心より御礼申し上げます。

タケムラヤスシ